感覚でしかわからなかった営業の業務実態を定量データとして取得。営業工数を時間数に数値化して把握が可能に。
飲食店情報メディアの草分け的な存在として、紙媒体やWEBで展開している「HOT PEPPER」・「ホットペッパーグルメ」。これらのメディアを運営する株式会社リクルートライフスタイルは、これまで営業担当者の業務だった原稿制作業務を営業から切り離し、専門部署で担うことを志向。そのため、各事業会社の機能設計を横断的に担う株式会社リクルートコミュニケーションズと、2017年12月にまずは営業実態の把握をすべく時間資源活用アプリ「P-1」を導入した。
感覚ベースでしかわからなかった営業実態を把握する
「ホットペッパーグルメ」はWebサイトで、合計約10万件にもおよぶ飲食店の情報を掲載。しかし取引件数はこの数年増大し、営業部門の業務負担が増えていたことが問題となっていた。
本来、原稿制作は営業にとってメイン業務ではない。また、業務負担が増したことで、原稿品質に差が生じるなどの問題も表面化していた。そこで「この状況はクライアントにとっても良くない」という考えから、営業から原稿制作の業務を巻き取り、原稿制作は専門組織で一括して作成するというセンター化の構想が生まれたのだ。
センター化を推進していくには、営業の行動実態を詳細に把握する必要がある。
しかし、それまでの営業実態調査はヒアリングのみ。得られた回答からも、工数100%のうち原稿を作っているのは20%、30%など感覚ベースでしかわからず、どのような業務にどれくらい時間を使っているのか、その実態は把握しづらいものがあった。
また聞いた人によって回答にバラツキも出て、誰に聞けばいいかという問題に。結果として回答ができるのはリーダー格の人で、模範的な回答で終わってしまい、平均値とは言えない場合もあった。ましてや、数人だけに聞いたデータでは実態を把握するのは難しかった。
入力率は95%を維持。データ取得の意義やメリットを伝えることがポイントに
生産性向上を図るためには、基となるデータを正確に取得できること、さらにそのデータを取得できるツールも必要である。そうした中で時間資源管理アプリ「P-1」を知ったのは、旅行領域の部署(「じゃらん」)で先行して使われていたことがきっかけだ。
導入にあたっては他のアプリと比較・検討した結果、工数負荷なくデータ取得が可能であること、操作もシンプルでプッシュ通知もあるということから、最終的に「P-1」に決定した。
まず、サンプルで2017年7~8月にかけて8組織でデータを取得。その後本格的に2017年12月からデータ取得を開始し、参考にできそうな3組織をピックアップ。その後段階的に対象組織を増やしていき現在は25組織、約280名が入力している。
センター化準備期間中(2017年7~8月)に「P-1」で各業務の工数を調査。原稿制作業務の比率(赤枠部分)により調査対象とする部署を決定した。
データ取得のため、入力率のモニタリングも実施し、入力していない組織があれば入力を促すなどの働きかけにより、1年経った今でも入力率95%を維持している。
こうした高い入力率を維持している理由は何か…。
それは、データを取る理由やその意義、そしてメリットをちゃんと伝えること、かつ、データを取ることで自分達にどんな良いことがあるのか、マインドセットを行ったことがポイントだ。
もともと同社の社員は、最初に目的の確認さえできていれば、当たり前のこととして続けられる人が多いという特長がある。最初はプッシュ通知を負担に感じた社員もいましたが、慣れるとスムーズに対応してくれるようになった。取得したデータがこんな取り組みにつながっている、自分達が入力したデータが業務の改善に生かされ、さらにそれが未来につながるということをきちんと明示していることが、入力率95%を維持している理由だと分析している。
あいまいだった営業活動が「時間数」に数値化してわかる
こうして継続的に定量データを取得することで、事業的な面で次のような効果があった。
- 営業行動のビフォー・アフターの比較ができるようになった。
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センターの立ち上げでどのような効果が出たのか、どれだけ営業の原稿負担が減り、営業活動時間が増えたのかが日時単位で見えるようになった。
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新規獲得を1件取るのにどれだけの行動量が必要なのか、今までアポイント数や商談数でしか判断できなかったものが時間で判断できるようになった。
ある営業グループにおける原稿制作業務を移管する前(上)と、した後(下)の業務比率。グレーの部分が原稿制作工数となっており、Before-Afterが明確に視覚化できている。このような比較を組織別に行うことができた。
さらに、こうした定量データがあることで事業内のコンセンサスが取りやすくなり、これまで営業の感覚や成功パターンで進めがちだった議論が、データを基にすることで話しやすくなった。例えば、これまで新規の営業が全体の何割くらいだったかということに対して、「2割とか3割くらいだと思うので何時間くらい…」という会話だったのが、何十何パーセントという具体的な数字で出せるようになったのだ。
それは会議の場でも生かされている。同社では、意思決定レイヤーに見せると『ここまで分析できるのか』と驚かれる。情報が定量データではっきりわかるので、今まで抽象的な議論だったものが、具体的な議論となり、さらに新しい議論が生まれるきっかけにもなっているという。
また、リクルートコミュニケーションズ内でも、意志決定のスピードが確実にあがっている。今までは、『もうちょっと人に聞いてきて』とか、『本当に正しいのか』と言われていたが、そうした出戻りがなくなったことを認識している。
例えば新規を1件取るための営業時間について、想定していた時間と、データ上の時間が違うこともあったが、「営業実態のデータから出した数字がこの数字」という説明ができるようになり、納得度が向上。さらに実態から取得したデータに対して、ノーと言う人もいなくなった。
P-1により蓄積されたデータが新たな業務の可能性に広がる
現在では、別の営業プロジェクトでも活用の動きが出ている。そこで、今後の「P-1」 をどのように活用していきたいかを聞くと、まずは「前年比較がしたい」との答えが返ってきた。
飲食業は季節トレンドがあるため、前月比較をしてもあまり意味がない。本当に見たいのは昨年のこの月はどうだったのか。データを1年にわたって蓄積できる「P-1」だからこそ、ようやくそれが実現できるようになったのだ。
またリクルートコミュニケーションズでは、今後、この様な取り組みをリクルートグループにも広く導入していきたいと考えている。